研究紹介
海洋化学の分野における微量金属の研究は、この四半世紀で飛躍的に進歩し、多くの元素で濃度レベルの訂正が繰り返されることで、ようやく確からしい値が得られるようになりました。現在の微量元素の分析技術に至るには、汚染や吸着を防ぎ、極めて低濃度を分析するためのクリーン技術の確立が必要でした。このクリーン技術と感度の高い分析法は、近年になって生物海洋学の分野にも広く普及するようになり、各海域における正確な微量金属元素の分布と、生物生産や炭素循環に果たす微量金属元素の役割に関する知見が蓄積され始めています。
私は、次の二つの観点から、海洋における微量金属(特に鉄分)の研究を進めています。一つは「微量金属元素の地球化学的循環」を明らかにすることです。クリーン技術を用いて各海域の鉄濃度を水平・鉛直的に正確に測定し、供給過程や分布、挙動を検討することで、地球化学的な鉄の循環を紐解くことを目指しています。もう一つは、「海洋の生物生産にかかわる微量金属元素の役割」を理解することです。微量金属元素が、栄養物質として海洋の植物プランクトンの増殖にどのような役割を果たしているのかを明らかにすることを目指しています。
最近は、これまで培ってきた微量栄養物質研究をさらに発展させて、オホーツク海や北極海をフィールドに「流氷(海氷)が極域海洋生態系に果たす役割に関する研究」にも着手しています。
海氷(流氷)が春季の植物プランクトンの大増殖にどのような役割を果たしているのか?」を明らかにする事を目指しています。

極域海洋の 物質循環
オホーツク海、北極、南極などの海氷が、地球規模の海洋物質循環にどのように関わっているのかを明らかにする事を目指しています。

海洋コンベアベルト終焉部における鉄とケイ素を含めた栄養物質プロパティの形成過程
地球規模海洋コンベアベルト終焉部の北太平洋を研究対象とし、日本周辺の「海の恵み」を生み出す栄養物質の化学的プロパティを制御する仕組みの解明を目指します。「海洋の主要基礎生産者である珪藻類の増殖」を制御するケイ酸塩(Si)や鉄分(Fe)が、どこで、どのような化学的プロパティ(窒素(N)やリン(P)に対する元素比)で北太平洋中層循環に取り込まれ、広域に移送され、西部北太平洋亜寒帯域および南部オホーツク海表層の生物生産が生み出されているのかを、国境を跨いだ観測に基づく唯一無二のデータセットを作成し、定量的に解明することにより、明らかにします。さらに化学的プロパティの新知見を基礎生産を表現する数値モデルに組み込み、温暖化に伴う海氷減少により、将来「海の恵み」が時空間的にどのように変化するのかを把握します。本研究は科研費によって2021-2025に実施されているプロジェクトです。